屋久島・離島の沢

屋久島 小楊子川左俣

宮之浦川瀬切川と共に、屋久島三大険谷に名を連ねる小楊子川。

豪快な巨岩帯、魅惑のゴルジュ、幻の大滝、美しい源頭部…

屋久島最後の秘境―小楊子川左俣はとてもドラマチックな渓谷だった。

屋久島 小楊子川左俣 遡行記録

2022/5/2~4 2泊3日 曇り時々晴れ

メンバー:シュカ、ケーシ

遡行グレード:4級上

屋久島入りしてから早2週間。
雨続きの中、ジムや日帰りの沢でお茶を濁す日々にウンザリした頃、
ようやくまとまった晴れ予報が出た!

今回のサワートリップの最大の目標、小楊子川左俣に行くチャンスではあるが…

いやいや、
今シーズン初の泊まり沢でいきなりハードすぎないか?
連日の雨で川は増水気味だが行けるだろうか?
ケーシは指を脱臼した状態で遡行できるのか?

色々な不安要素がある中、小楊子川左俣と(第二目標の)安房川下部で揺れるが、
3日間の好天はこの先望めそうにないので、やはり小楊子川左俣を遡行することに決定。

3泊4日の想定で、4日目は雨の中の下山を覚悟して出発。

1日目:小楊子川本流~左俣下部ゴルジュ

暗いうちから2時間ほど小楊子林道を歩いてアプローチ。
林道終点手前、co400辺りから沢に下りる。いよいよ遡行開始だ。


屋久島恒例の巨岩帯がお出迎え。一つ一つの岩を越えるのが大変。
沢伝いに行こうとしても、大岩に阻まれて思うように進まない。

右岸の大スラブを横目に、ひたすら巨岩ゴーロ歩き。

時折滝も出てくるが、登れる形状ではないので基本高巻き。
今のところ高巻きが8割で、沢登りと言うよりもバリエーション登山という感じ。

巨岩の間を轟々と流れる水…
ザ・大渓谷。

川の中にゴロゴロ転がる巨岩たち。

数ある巨岩の中でも面白い形の、通称「桃太郎岩」。
ド真ん中から綺麗に割れているようだ。


正面左手に「コケシスラブ」が見えてきた。
胴体に対してだいぶ小顔な気がするが、おかっぱ頭のコケシに見えなくもない。

コケシスラブの通過が小楊子川の最初の核心らしい。
沢の中を巨岩越えで突破することもできるが、水量が多いと困難とのこと。
今回は増水気味なので、迷わず高巻き決定。

右岸の登りやすそうな斜面から高巻き開始。
100m程標高を上げてコル地形を越え、下りやすい所から懸垂なしで沢に復帰。
この高巻きには1時間ほどかかった。

巻き降りても相変わらずの大渓谷っぷり。
あまりキンキンの水に浸かりたくはないが、時には徒渉もしつつ進む。

高さは無いが通過が少しシビアな小滝。

左岸のスラブを登るが、荷物が重いと結構怖い斜度。
後続は荷上げして突破。


続く小滝。ちょうど滝が落ちている所から水流横断。
足を取られたら下まで流されそうだったので、念のためロープを出した。


一本杉が生えるインゼル。
巨岩の隙間でたくましく生きている。

 
一本杉の中にお邪魔するケーシ。
人一人が横になれる空洞になっていたようだ。


越えても越えても現れる巨岩帯にメンタルが崩壊しかけた頃…
ついに、奥に二俣が見えてきた!!

飽きるほどの巨岩帯を越えて、ようやく二俣に到着。
今日はここで終わってもいいかな~という疲労感ではあるが、時間はまだ13時半。
…あわよくば沢を2日で抜け、3日目は晴れの中下山できるのでは?

ということで遡行続行!できるだけ1日目に距離を稼いでおくことにした。
二俣を左に入る。

左俣に入れば沢も少しは小さくなるかと思いきや、相変わらずのスケール感。
まだまだ大渓谷という感じだ。


両岸が切り立ってきた。
いよいよ左俣の下部ゴルジュが始まるようだ。

そしてついに来てしまった…
絶対に泳がなくてはいけない淵が…


事前情報では泳ぐ箇所はここだけ。
腹をくくって泳ぎだすが、やはり水が尋常ではないほど冷たい!
頭が痛くなるほどの冷たさ。これは水温一桁では…?

たった数十秒の泳ぎでだいぶ消耗した所に、小楊子川第2の核心らしい滝が現れる。

先人たちの記録を参考にさせて頂くと、どうやら倒木と岩壁の間を登るか、少し戻って左岸バンドをトラバースして通過するかという感じ。
どちらが安全そうか審議の結果…

バンドトラバースに決定。
バンドに上がってからが嫌らしい感じだったので、ロープ出して荷上げで通過。

なるべくスピーディを心掛けたつもりだが、ここで40分程かかった。
我々はバンドから一段下がって外傾したスタンスが続く嫌らしい箇所をトラバースしたが、登り終えてみると、バンド沿いにそのままトラバースした方が安全そうだった。

動かない時間が長い&全身の濡れで非常に寒く、更に体力を削られてゆく…。

ゴーロを少し進むと、再び似たような滝が出てくる。
左岸から巻いた。

co920 中俣の15m滝。なかなか迫力のある滝だ。
ここで時間は15時半。テンバを探しつつ先に進むことにする。

苔の美しい滝。
優しい渓相に心は癒されながらも、身体は疲労困憊だ。

長い淵のある小滝が登場。
2人とも疲れで思考が停止していたのだろうか、
なぜか「ここは泳ぐしかない!」と淵に向かってゆくケーシ。
既に歩く機械と化していた私も、高巻きルートを吟味する気力もなく淵を泳ぎだす…

結果、更に無駄な体力を消耗。そろそろ限界だー!


小滝を越えると、先は再び淵と小滝。
今度こそ巻けず、進むか戻るか、どちらにしろまた泳ぐしかない。

体が冷えて思うように動かないので、沈まないように必死で泳ぐ…

小滝に上陸。越えられる形状で良かった。
これ以上泳ぐところが無いことを願う。

角度が悪くて映っていないが2条の滝。
左岸から巻くとのことだが…。

また泳ぐ!
疲労でルーファイ力が死んでしまったのか、ここも泳がざるを得ないように見えた。
割と本気で死にそうになりながら岩の詰まったルンゼに上陸、バンドから滝を巻き上がる。

続いてカーテン状の10m滝。
左壁を登って越えるが、水しぶきと風が凄くてこれまた寒い。
完全にトドメをさされる…。

ケーシはまだ歩けるとのことだったが、私が限界で16時半に行動終了。
滝上にちょうど平らなスペースがあって助かった。


急いで乾いた服に着替えてテントに入る。
屋久島は焚き火禁止なので、服を乾かしたり暖をとったりできず辛い。
食べても寝袋に入ってもあまり体温が戻らず、中々にシンドイ夜だった。
沢泊で初めてテントを持ってきたが、これが無かったらヤバかったかも…。

2日目:上部ゴルジュ~小楊子大滝~永田岳

翌朝、ゆっくりめに起きて朝7時に出発。
寒さと疲れのせいか、起きたら身体がガチガチだった。
(これが最終日に響いてくる…)

昨日で下部ゴルジュは抜けきったようで、行く先は穏やかな渓相が続いている。


ナメ床も現れ、とても美しい渓相だ!
もっと光が入る時間帯なら、更に美しいのだろう。

癒しの渓相とはいえ、まだまだ水量が多い。
対岸に渡る時には、足を取られないように気を使う。

深い釜もまだまだ出てくる。

比較的歩きやすい、穏やかな渓相。
束の間の平穏。

次第に再び巨岩帯へ…

しばらく我慢の遡行が続くが、巨岩越えのおかげで身体が暖まってきた。


曇りがちだった空がようやく晴れてきて、テンションアップ。
晴れているだけで全然やる気が違ってくる。太陽光はやはり偉大。

沢が開けてきた。
この先にゴルジュや大滝が出てくるとは思えない雰囲気。


co1410の枝沢から流れ落ちる滝。
ここを過ぎると、もうすぐ上部ゴルジュだ。

上部ゴルジュの始まりとなる、2段の樋状滝。
青く透き通った淵がとても美しく、個人的にはこの沢で一番印象に残った景色。


オアシスのような場所だった。ずっとここで癒されたい。


心を鬼にしてオアシスを後にする。
2段樋状滝を左岸の枝沢に入って巻き、ゴルジュ内に降り立つ。
今のところ威圧感はあまり無い。

ゴルジュ内にはCS滝がいくつもかかる。
左岸から巻いて先に進む。


両岸が更に切り立ち、険しい地形になってくると…


ついに小楊子大滝が姿を現す!
落差は2段70m、幻の大滝とも呼ばれている。(確かに見に行くのが相当大変)


標高1500m付近とほぼ源頭部なのにも関わらず、こんな大滝が出てくるとは…
改めて屋久島の沢のスケールに圧倒される。


水量が多く下流部では苦労したが、迫力のある小楊子大滝を見られて良かった。


小楊子大滝の高巻きは、ゴルジュが左に曲がる所にある左岸のルンゼから。
しばらく藪漕ぎだ。


高巻き中に見えた小楊子大滝。

視界の良い所で落ち口の場所を確認しながら進む。
左手には永田岳が顔をのぞかせている。イカツイ。

約1時間半の高巻きで落ち口に降り立った。

小楊子大滝の上にはナメ滝が続く。
心が洗われるような渓相。

大きく深いポットホール。
このナメ滝は直登できず、奥にも細く長い淵が続いているためまとめて巻く。


小さく巻こうとしたら足元が急な上、頭まで笹薮に埋もれて大変だった。
少し上がると楽になるので、ここはある程度登ってからトラバースがオススメ。


巻き終わりから細いゴルジュを振り返る。

いよいよ源頭部という感じで、穏やかな渓相だ。
沢の規模もだいぶ小さくなってきた。

屋久島らしい、美しい源頭部を楽しみながら進む。


再び沢幅が狭まる。プチゴルジュにかかるCS滝。


狭い沢筋に大岩がギッシリ詰まっている。
しばらく岩越え。

再び沢が開けると、いよいよフィナーレのナメ地帯に突入!

素晴らしい源頭の風景。
これまでの疲れも吹き飛ぶようだ。

疲れが吹き飛んだところで藪に突入。
co1710の地形図で三俣になっている所は、登山道まで最短ルートの真ん中へ。

最初は藪だったが、その後はナメ床で歩きやすかった。

ほぼ藪漕ぎ無しで登山道に出ることが出来た。時間は16時前。
いやー、ハードな沢だった!と倒れこむようにしばし休憩。笑

休憩しながら宮之浦岳を眺める。ここからなら淀川登山口に下山するのが一番楽だ。
結構疲れていたので、そちらに下りるか迷うが…
今からだとタクシーを呼ぶか、登山口で翌朝を待ってバスに乗るかの2択。
タクシーは高いし、バスも待つのが面倒。淀川下山を諦める。

覚悟を決めて永田岳に向かって歩き出す。
目指せ鹿之沢小屋。

しっかり永田岳もピークハント。

17時半頃、鹿之沢小屋に到着。ほぼ満員状態だった。
小屋近くの広場にテントを張らせてもらい就寝。GW恐るべし。

3日目:下山

朝起きて準備をしていたら、テントの外に出していたグローブがカチカチに凍っていた。
ということは…
当然沢靴もカチカチに凍っていた。これじゃ履けないじゃん…
沢水で解凍して履いたが、足元が極寒で一気に身体が冷えてしまった。


長い花山歩道をひたすら下る。
出だしがヤブっぽかったので心配になったが、そんなに荒れておらず概ね快適。
しかし、この下山中に右足アキレス腱が痛み出す…
身体がガチガチのまま動いてきたツケが、ここで来てしまったようだ。

4時間ほどで花山歩道入口に到着。
この辺りで足を引きずる程の痛みになってしまったので、
ヘルニア手術上がりのケーシには悪いがロープをパス。
ゆっくりと長い林道を下る。

約2時間後、這う這うの体で林道入口に到着。
林道を下る途中でケーシに先に行ってもらい、車を取ってきてもらった。
これにて今回の沢旅は終了。とにかく疲れた!

後でよくよく右足の状態ををチェックしてみると、
アキレス腱が腫れ上がり、足首を動かすとギシギシ音が…!
数日で治る感じではなく、私の屋久島での沢登りはここで終了となった。
しばらく治療に専念します…

小楊子川左俣は体力勝負の沢という印象で、技術的に難しい所はあまり無い。
左俣に入ってからの渓相は、とても変化に富んでいて素晴らしかった。
逆に左俣に入るまではずっと巨岩帯なので、個人的には二俣から入渓するのもアリだと思う。
(ケーシに提案したら大反対されたが…。下部の巨岩帯を越えてこその小楊子川だというのもまぁわかる。そのくらい濃密な巨岩帯だった。)

屋久島最後の秘境、手付かずの原生林を流れる小楊子川左俣。
今後もそのままの姿で残っていてほしいと思う。

コースタイム

1日目
駐車スペース 4:00ー下降点 6:00ー入渓 6:20ーコケシスラブ 10:30ー二俣 13:20ー中俣出合 15:20ーカーテン滝上 16:30

2日目
行動開始 7:00ー上部ゴルジュ入口滝 11:30ー小楊子大滝 12:30ー滝上 14:00ー登山道 15:50ー永田岳 16:40ー鹿之沢小屋 17:30

3日目
行動開始 6:40ー花山歩道入口 10:50ー林道入口 12:40

装備

ラバーソール靴、30mロープ、テント